行政内部資料の開示請求

私のblogに海外から多くのcommentsをいただいています。決して読み易いといえない私の文章が，地球の反対側でも読まれているという感覚は新鮮です。強い励ましを感じます。internetの威力を感じます。
返事が欲しい，連絡をくれというご要望もありますが，対応できていません。何をいえばいいか，戸惑いもあります。返事を書く（日本語でも）のが苦手で，次のブログにとりかかりたい気持ちが先に立ちます。commentsの励ましがそうさせるのです。経験と知識を整理するために始めたblogですが，集めた資料も相当の量になりました。資料は無駄になっていません。書き続けることで将来が見えてくるような気がすることもあります。
弁護士生活も長くなりました。ただ長いだけでは，誇り（ほこり）ではなく，埃（ほこり）しか溜まりませんので，経験論を超え，近未来を俯瞰するようなblogを目指そうと思います。
ありがとうございました。

　東京電力株主代表訴訟の原告らが福島第一原発事故を調査した政府調査・検証委員会が聴取した吉田昌郎所長ら７７２人分の調書の公開を求める。政府調査による聴取であり，国が公開請求の被告になる。
任意に公開される可能性は低い。国が非公開決定すると，行政訴訟が提起される。（行政不服審査法の不服申立て，内閣府に設置される情報公開 ・個人情報保護審査会に諮問。その答申に基づく裁決。非公開裁決を不服とする行政事件訴訟である。）
政府事故調は誰を聴取したかも明らかにしていない。調書類は，いま内閣官房に保管されている。調書類ははたして誰の財産なのか。
　株主代表訴訟は東電の取締役の経営責任を問うものであるから，原発事故後の指揮命令が適切に行われたかが，重要な論点になる。現場の所長の対応は適切だったかはむろん，本社指示が適切だったかについては，刻々と原子炉溶融が進む緊迫した状況の中で，組織の取り組みとして最低限必要な判断が行われていたかが，現場の数百名の作業員の証言によってのみ明らかにされる。
　情報公開法（2001年施行）第5条（行政文書の開示義務）（1項ハ）がある。
行政機関の長は，開示請求があったときは，個人情報であっても，個人が公務員等である場合で，情報がその職務の遂行に係る情報であるときは，公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分を開示請求者に対し，当該行政文書を開示しなければならない。
　例外的に不開示とされるのは，次の６種類。吉田調書の開示請求とはどう関係するか。
① 特定の個人を識別できるような個人情報
②　事業を営む個人，法人，団体に関する情報で，公にすると財産権などを侵害するおそれがあるもの
③　公にすると外交や国防に不利益を生じさせるおそれがあるもの
④　公にすると公共の安全や秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるもの
⑤　国の機関や地方公共団体の情報で，公にすると意思決定などの中立性を損なうおそれがあるもの
⑥　国の機関や地方公共団体の情報で，公にすると事務や事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
吉田調書を誰が朝日新聞に流したか，安倍官邸は犯人捜しを始めている。官房長官は非公開を前提にヒアリングに応じて貰ったから，公開しないと断言。もし特定秘密保護法（未施行）に違反してたら，朝日の記者も渡した人も逮捕される。昨年末，同法は制定された。

制定の発端は，2010年9月に尖閣諸島付近で起きた中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件にある。海上保安庁職員が船上で撮影した映像を，民主党菅政権の了承を得ないまま2010年11月インターネットで公開した。菅総理大臣は公開翌日，国土交通大臣に「情報管理の徹底と，事実関係の確認をするように」と述べた。翌年，有識者会議が「秘密保全法制を早急に整備すべきである」とする報告書をまとめ政権が国会提出を目指して昨年安倍内閣が制定。
　ところが2011年の日弁連会長談話によれば，ビデオ映像の元の10時間ビデオ映像の取扱いは「秘密」指定されていなかった。当初，海上保安庁内の研修資料として共有され，1か月以上も経ってから，国土交通大臣が海上保安庁に映像の管理徹底を求めた。また衝突事故は，発生直後から事故状況に関する報道がなされ，11月，ビデオ映像を目視確認した国会議員が映像の内容を記者に説明し，テレビで再現画像を放送し，新聞で再現図を掲載した。誰もがビデオ映像の内容を知っていた。つまり報道で概要が明らかにされた時点で，実質的に秘密保護に値しない状況であった。
　特定秘密保護法の特定秘密の指定対象となるのは，①防衛に関する事項（イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積もり若しくは計画若しくは研究，ロ 防衛に関し収集した電波情報，画像情報その他の重要な情報，ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力，ニ 防衛力の整備に関する見積もり若しくは計画又は研究など），②外交に関する事項（イ 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち国民の生命及び身体の保護，領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの，ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針，ハ 安全保障に関し収集した条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報その他の重要な情報など）。③特定有害活動の防止に関する事項，④テロ活動防止に関する事項である。
「特定秘密を取り扱うことを業務とする者」，「公益上の必要により特定秘密の提供を受け，これを知得した者」による漏えい，特定の「取得行為」およびその未遂，共謀，教唆，煽動が処罰対象となる。
　吉田調書は特定秘密にあたるか。中村多美子弁護士（京大法博）は，吉田調書は，公開されている部分を見る限り，到底，「特定秘密」に該当しないという。官房は情報公開法の不開示例④，⑥を主張するのであろうか。

　かって，沖縄密約事件というのがあった。沖縄返還の日米交渉が山場を迎えた1972年，外務省の機密電文を横路孝弘議員が知り，返還には密約があると政府を追及した。電文は女性事務官が西山記者に渡していた。二人は国家公務員法違反に問われ，有罪となった。
　問題は，法廷での証言にある。
複数の外務官僚は「密約はなかった」，電文の意味について「記憶にない」と証言した。職務上の秘密なので，東京地裁の裁判官は自分で外務省官房に承諾を得るために電話。判決では，密約があった疑いが残るとした。裁判官は後に，外務省にだまされたと嘆いた。この国家公務員法に輪をかけて，特定秘密保護法は厳罰を科すことになる。
　90ヶ国を越える世界の国々が，情報公開法を定めている。スウェーデンのプレス自由法（1766年制定）が最も古い。殆どの情報公開法が，私企業の個人情報を管轄外としている。私企業が保有する情報へのアクセスは，法的に保障されていない。

　Watergate Scandalを思い出す。
1972年6月，Washington民主党本部で起きた盗聴侵入事件に始まった合衆国の政治scandal。ニクソン大統領（Richard Milhous Nixon）が史上初めて辞任するまでの盗聴，侵入，裁判，もみ消し，司法妨害，証拠隠滅，事件報道，上院特別調査委員会，録音tape，特別検察官解任，大統領弾劾，大統領辞任を総称していう。ニクソンがtapeの公開を拒絶し続けた一方，The White Houseが編集したtapeの筆記録を提出することには合意した。だが，公表された筆記録には削除箇所が多数存在し，ニクソンの支持層の中心だった保守層からもニクソン支持を大きく低下させた。録音tape提出の問題は最高裁まで争われ，1974年5月，特別検察官は起訴された高官たちの審理の証拠品としてさらにtapeの提出を命じ，ニクソンはこれも拒否。7月24日，連邦最高裁は8対0の全員一致で，tapeを検察官に引き渡すようニクソンに命じた。
事件の影響は，ニクソン辞任と補佐官のうちの数人の刑務所への収容で終わらなかった。事件によって選挙運動での資金調達が大幅に変わることに繋がる新しい法律が成立した。また，重要な政府高官の新しい資産公開要求の法律と同様に「情報公開法」可決の要因となった。所得税課税資料のような個人情報開示は次の課題とされた。吉田調書や沖縄返還密約（今は公文書館で閲覧できる）は合衆国では，どう扱われるのであろうか。