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June 18, 2009

ライブドア判決(続)

 米国は金融危機の再発防止に向けた金融規制改革に本格的に乗り出した。改革案では証券・保険会社を含め,金融システムに重大な影響を及ぼす大手金融機関の監督権限を米連邦準備理事会FRBに集約する。リーマンブラザーズやAIGなどの銀行以外の金融機関の経営についてもFRBが規制する。預金を集めない証券・保険会社が複雑な金融取引を手がけていると,破綻したとき金融市場に大きな影響が出る。証券・保険の持ち株会社は経営名用が複雑で,傘下の単一の会社のようには監督しきれない。金融機関の連鎖破綻を防ぐためにも,金融システム全体をFRBが監視できるようになる。もし破綻が避けられないときは,悪影響を抑えるため円滑に処理する制度も設ける,という。(日経6.18)
 注目したいのが,次の点。むりな貸し出しを防ぎ,損失に耐えられるように大手金融機関を中心に自己資本規制を強化し,破綻に備えた保険の一種CDSなど,これまで規制から漏れていたリスクの高い金融派生商品を監視下に置くこと。また,貸出債権を小口化する証券化商品にへの規制も強化する。投資家に転売すれば危険を回避できたため,信用力の低い借り手に安易な融資をして住宅バブルの破綻を招いた反省を踏まえ,証券業務をする金融機関にも債権の5%を保有させてリスクを認識させることにするという(尤も,なぜ5%かは不明)。金融商品を利用する消費者を保護する金融消費者庁も創設し,FRBの権限の一部を移して金融機関の営業・商品設計何度にも介入するそうだ。
 なるほど,持ち株会社の監督は難しい。問題は、「法的責任主体と対社会的責任主体が一致していない」ことである。日本では親会社が日常的に子会社を支配し利益を吸収しているが、子会社の債権者に対して親会社取締役は商法上責任を負っていない。また、子会社取締役が債権者に対して直接責任を負うことはありえない。株主代表訴訟により子会社取締役が責任を負う可能性はあるかというと、株主は100%親会社だから、それもありえない。さらに、親会社の株主が子会社取締役に対して代表訴訟できるかというと、彼らはあくまで親会社の株主ゆえ、その権利をもたない。要するに、日本の現行商法上、持株会社は法的責任隠蔽のためのシステムでしかない。持ち株会社のメリットを活かすためにも、欧米並みの企業結合法制の整備が急務である(上村達男 早大法学部教授)。
 日本が米国と違うのは,金融・証券・保険の監督は金融庁が行い,日銀ではない点。中央銀行が監督をするのが世界の潮流になりつつあるが,日本で金融機関監督権限を持つのは金融庁であり,その面での日銀の独立性はない。金融庁がしっかり監督できていてば,権限委譲も必要ないことになるが,それだけ機動的に監督しているだろうか。とりあえず,来月,上場企業が提出する内部統制監査報告書を金融庁がどのように評価するか,注目したい。
 さて,ライブドア判決は,取締役もそうでない者も,それぞれの立場で責任を負うという。有価証券報告書を提出したのはライブドア。提出時の取締役5名は虚偽記載につき当然有責。取締役でないが,ライブドアファイナンスの取締役としてファイナンス事業に関与していた2名は不法行為責任を負い,監査役2名は証取法の責任を。監査法人の公認会計士は不法行為責任を負い,監査法人は証取法の責任を負う。一網打尽だが理由付けが少しずつ違う。
 まず,証取法上の責任は無過失責任だから,5名の取締役は虚偽記載を知っていたかどうかに関係なく,損害賠償責任を負うことは疑問はない。実際には,連結経常利益の額が虚偽であることを知っていたから,その事実だけでも責任を負う。有価証券報告書提出の直前に取締役に就任した者であっても変わりはない。就任直前でも自社株式売却益を連結売上に計上することが会計処理上適切か否かの疑問を持つこともでき,取締役に就任するのであれば,ファンドの実態を確認し,会計監査人に聞くなど具体的な措置を執るべきであったと言える。架空売上の計上につき,「相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかった。」(旧法21条2項1号)とは認められない。
また「相当な注意」とは,技術部門担当で非常勤であるとか,一時米国に滞在して電話会議しかできなかったとかの事情があったとしても,会社の業務全般について協議,決定し,これを監督すべき地位にあり,法も担当の如何を問わず前取締役に損害賠償責任を負わせて有価証券報告書の正確性を確保しようとしているのであるから,担当が違う,非常勤だ,海外に滞在しているといって,与えられた情報のみで有価証券報告書の正確性を判断すれば足りるものではなく,注意の程度が軽減されるものではない。
 難しいのが「取締役,執行役,監査役に準ずる者」(旧法24条,22条1項)のあつかい。
取締役が責任を負う理由は,企業概況,事業,設備,会社,経理の各状況,企業の全般を知りうる立場にあるからである。そうすると「これに準ずる者」も,同様に知りうる立場になければならない。グループのファイナンス事業に関与していたに過ぎない者は,証取法の責任を負わない。しかし,虚偽記載のある有価証券報告書が提出されることを認識して虚偽記載の作出に重要な役割を果たした者は,不法行為責任を負うことになる。その者はライブドアの株式売却,子会社への架空売上の連結損益計算書に計上され,有価証券報告書が虚偽記載されることに重要な役割を果たしていた。
 執行役員も被告にされたが,一事業部を担当する長に過ぎず,「執行役に準ずる者」といえない。彼には取締役と同等の地位や権限はない,という。
 さて,次は弁護士監査役,もと警察官監査役の責任判断はどうだったか。
「監査役は取締役や監査法人とは異なり,会計監査人の報告書が監査役会に提出されてから監査する点で有価証券報告書への関与の仕方が二次的であり,その会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときに監査報告書に記載するとされているから(旧商法特例法14条3項1号),投資家に対して直接責任を負うのは虚偽が監査役に明らかであり,虚偽記載を容易に阻止できる場合に限るところ,子会社に対する売上をライブドアの売上に計上できるか疑っていたから,虚偽が監査役に明らかであったとはいえない」と責任を否定した。この判断に問題がないわけではない。架空売上ではなく,適法な売上であるという意見書を監査法人に提出していたからである。監査法人は監査役がどのような意見を言うかに関係なく,無限定適正意見を表明するつもりであったから監査役は不法行為責任を負わないとされただけである。
 それでは監査役には証取法の責任もなかったのか。「架空売上の疑いを持ち,監査法人に,なぜ無限定適正意見を出すのか報告を求めることができたのであるから(旧商法特例法8条2項),このような措置を行わなかったのは「相当の注意を用いた」ことにならない。」よって証取法24条の2,22条の責任を負うとされた。弁護士が法律専門職であることも監査役としての注意義務を加重するはずである。
 今年から内部統制監査報告書を作成する監査役の仕事量はさらに増えるだろう。会社法429条三号は「監査役は監査報告に記載し,又は記録すべき事項について虚偽の記載又は記録をすれば,第三者に責任を負う」,340条は「監査役は会計監査人が職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったときは,その会計監査人を解任することができる」,397条2項は「監査役は職務を行うため必要があるときは会計監査人に監査に関する報告を求めることができる」同条1項は「会計監査人は取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令定款に反する重大な事実があることを発見したときは,監査役会に報告しなければならない」としている。つまり,監査役は会計監査人より優位に立ち,重要な任務を帯びた。架空売上のみならず取締役の任務全般を監視し,報告を求め,監査報告書の記載に正確を期さなければ自分が任務を懈怠したことになる。
 昔のような刺身のつまの仕事ではない。

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