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May 08, 2009

代表訴訟散見

取締役の責任を追及する訴訟は損害賠償請求に限らない。
明治44年,昭和13年,25年の改正では,取締役の責任の明確化,厳格化ことに弁済と賠償の責任が唱われたが,損害賠償責任に関する改正であった。しかし母法の米法は,代表訴訟を損害賠償に限定していない。会社の利益になることなら,取締役に一定の作為を求めることだってできる。いくつか判例もある。米国では株主代表訴訟によって生じる利益が金銭的なものでも非金銭的なものでも,「実質的利益」と評価されれば,請求の対象になるし弁護士報酬も認められる。たとえば,株式が違法に発行されたことを理由とする無効確認請求,会社財産の浪費を防ぐための「会社内の治療」(連邦最高裁)により会社に実質的利益をもたらす和解,その他会社内の改革・内部手続・ガイドラインの新設,会社にリスクの高い株式買い入れ阻止など。日本では真正な登記名義の回復請求,大阪高判昭54.10.30。三菱自動車の「コンプライアンス基金」によって支払われた和解金により拡充される法令遵守体制(注記参照)も新たな手続の請求であり,会社に実質的な利益をもたらすものとして代表訴訟の対象になる。
 株主代表訴訟によって責任を追及されるべき取締役の責任は,266条の弁済・賠償の責任と280条の13の資本充実責任に限られるという説もあったが,今ではそのような狭い責任ではなく,善管注意義務違反,忠実義務違反のように取締役は委任契約に基づいて会社に負う契約上の責任をも指すと解されている。
 3月10日,最高裁第3小法廷は「会社が取締役の責任追及を懈怠するおそれがあるのは,取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られる。」「266条1項3号は,取締役が会社を代表して他の取締役に金銭を貸し付け,その弁済がなされないときは,会社を代表した取締役が会社に対し連帯して責任を負うことを定めており,会社を代表した取締役の責任より重いともいうべき貸し付けを受けた取締役の取引上の債務についての責任も,267条1項の取締役の責任に含まれる,借りた方も貸した方と同じ責任を負うのは当然である。取締役所有名義の土地につき,真正な所有者である会社への所有権移転登記を求めることは取締役の地位に基づく責任を追及するものでも、会社との取引の責任を追及するものでもないから,代表訴訟に馴染まないが,会社と取締役の土地借用契約の終了を原因とする真正な登記名義の回復を求める点は,取締役の会社に対する取引債務の責任を追及するものであるから,適法な訴えである。」として原審に差し戻した。
取締役に善管注意義務があることを考えれば,会社との取引に何らかの責任を負うことは当然のことと思われるが,果たして新しい判例であり紹介に値すると評価する(金融商事判例1315号)程のことであろうか。

 それより,もと横綱貴乃花夫妻に対する週刊新潮の中傷記事についての代表取締役の責任を認めた東京地裁判決(2月4日)の方が奥が深い。
 新潮の記事の内容は,「株取引の失敗から多額の借金がある。親方貴乃花に敬意を持たず,私利私欲のためにその財産を独占しようとした。親方が病を押して断髪式に参加したのには目もくれず,無視して通り過ぎた。無断で部屋の土地建物の権利証を持ち出した。兄横綱若乃花との優勝決定戦に,『傍目に見て力の入ってない一番に見えたんですが間違いでしょうか』という質問に対し,『それは間違いないでしょうね』と述べた。その他,部屋の承継問題,借金,暴力団関係者とのつながり」などであった。
判決は,名誉毀損に当たる行為を次のように指摘した。
権利証を持ち出したとしたいう記載は,窃盗を言うものであるから,名誉毀損に当たる。
遺産総額6億円余全部をほしいと思っている,協会の年寄株を手放したくない,遺体引き取りを拒んでいる,貴乃花が怒って「お前らには部屋は任せられん。相続も考え直す。」といった。「親方は協会理事でいられるのもウチの親方が頑張ったからですよね。だから,後は私たちの好きなようにさせて下さい」と妻が言った。という記事は,一般の読者に妻が相撲部屋の女主人としてふさわしくないとの印象を抱かせるものであり,子の人格に問題があるとの受け止め方が可能であり,相撲部屋の親方としてふさわしくないとの印象を抱かせるものであるから,名誉毀損に該当する。
ほかにも記事がいくつか紹介されている。八百長相撲は社会的名誉を傷つけた。若乃花が相続放棄したのは貴乃花のバックに暴力団関係者がいるからだ,は名誉毀損に該当する。新潮は各記事は詳しい関係者からの情報提供によるものだ,として引用の形式をとっているが,だからといって名誉毀損該当性が否定されるものではない。
しかも,各記事が事実であれば違法性を欠くおそれがあるが,いずれも事実と認めるに足りる証拠がなく,仮に間接的にそのような情報があったとしても,権利証を無断で持ち出したとの事実が真実であると信ずべき根拠にならない,などを指摘して名誉毀損による損害賠償を認めた。一つ一つは,興味本位の記事である。この判決の真髄は次の点にある。「株式会社であろうと,出版を業とする企業は,出版物による名誉毀損の権利侵害行為を可及的に防止する効果のある仕組み,体制を作っておくべきであり,株式会社においては代表取締役が業務の統括者として,社内に上記の仕組み,体制を構築すべき任務を負うといわねばならない。第一に,記事の執筆に関与する従業員に対し,名誉毀損等の違法行為の要件やそのあてはめ等に関する正確な法的知識,名誉毀損等の違法行為を惹起しないための意識と仕事上の方法論を身につけさせておかなければならないというべきである。
 例えば,弁護士の講義や事例研究による研修,出版物に記載しようとする事実についての真実性確認の方法としての取材のあり方,裏付け取材のあり方についての研修を行うなどの方法により従業員に権利侵害行為の違法性について十分な認識を持たせるとともに,権利侵害行為を惹起しない取材,執筆,編集活動を行う意識を啓発し,慎重な取材,取材結果の結果の検討,裏付け調査,執筆,編集活動を自ら行うことができるだけの法的知識,事実の有無と根拠についての判断能力,慎重に記事を作成する姿勢をもたせることが考えられる。つぎに,出版物を公刊する前の段階で法的知識,客観的判断力を有する者に記事内容に違法性がないかチェックさせる仕組を社内に作り,権利侵害行為を惹起する記事がそのまま発行されて不特定多数人に流布されることを防止する仕組,体制を整えることが考えられる。・・・出版を業とする株式会社の代表取締役は出版物による名誉毀損行為等の権利侵害行為を可及的に防止するために有効な対策を講じておく責任があるというべきである。いやしくもジャーナリストを称する以上,企業が専ら営利に走り,自ら権利侵害行為を行ったり,権利侵害行為を容認することがあってはならない。・・・・
 新潮編集部では弁護士を交えて名誉毀損等の勉強会を開き,編集部員全員を出席させていたものの,頻度は2年に一回に過ぎず,成果は何らかの認識が深まる程度にとどまり,出版物発行前のチェック体制としては担当取締役一人に一任され,同人は個々の記事の内容の正確性,当否の判断はすべて基本的に編集部がすべきであると考えて編集長の説明にいくつか質問する程度にとどまっていたこと以外は,名誉毀損惹起を防止すべき仕組,体制は作られていなかったことが認められる。
 本件各記事は十分な裏付け調査が行われておらず,・・・会社内部にこれを防止すべき有効な対策がとられていなかったことに原因があるといわざるをえない。そうすると,被告代表取締役には任務を重大な過失により懈怠したものとして,商法266条の3第1項に基づく責任があると解するのが相当である。
この仕組,体制を整備する義務は,「編集権の独立」とは必ずしも背反するものではない。
 判決の引用が長いのは,ご容赦いただくとして,代表取締役社長が社内の仕組み,体制の整備を怠った点にその任務違反の責任を認めた。
 週刊誌による名誉毀損事件は近年増えているが,編集部の編集権の独立なるメデイアの反論を排除して,代表取締役の社内体制整備を必須の任務であるとして(善管注意義務違反の趣旨か),損害賠償責任と謝罪広告を命じた。
この判決の射程距離は大きい。業種に応じた管理体制を用意して置かないと,それだけでトップの責任が問われるからである。今後の動きを注目したい。

(注記)
2000年7月,運輸省への内部告発を機に,三菱自動車が前年の同省の立ち入り検査でリコール(無料の回収・修理)につながる顧客らからのクレーム情報の一部を隠蔽していたことが発覚。社内調査の結果,無届けで内密に回収・修理する「リコール隠し」を約30年にわたって組織的に行っていたことも判明し,同社と元副社長ら4人が道路運送車両法違反(虚偽報告)の罪で略式起訴され,罰金刑を受けたほか,当時の社長が引責辞任に追い込まれた。ついでタイヤ脱落死傷事件,プロペラシャフト脱落不対応事件など事件も浮上しており,「これらを根本から反省し再発防止の徹底をはかるため経営トップに直結したCSR並びに品質統括本部を設置し,トップが社員全員の先頭に立ってお客様への真摯な対応に万全を期す体制を敷くことにした。」という声明文を発表した。同社トップの長期君臨がコミュニケーション不全とコンプライアンス意識の欠如を招いたことを考えれば,上記の声明は当然と思われる。それでも,トップが先頭に立って対応することにしたと言う決意表明には,今後同社の経営がトップの意向をそのまま投影したものとして受け止められることを認めた意味がある。

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Comments

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Posted by: sirube | May 08, 2009 at 04:18 PM


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Posted by: パチン-コ最高ーーー!!! | May 10, 2009 at 12:47 AM


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Posted by: おおおっぉぉっぉおおああwww! | May 20, 2009 at 06:39 AM


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Posted by: ムラムラ村!!!! | May 26, 2009 at 05:20 AM

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