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April 20, 2009

会計帳簿の閲覧謄写

会計帳簿(会社法432条)とは,会社計算規則4条の書類をいう。計算書類(法435条)とは,規則91条の各事業年度の貸借対照表,損益計算書,付属明細書等の計算書類をいう。具体的にどのような書類をいうかは,あとで判例を引用しながら説明させていただくとして,株主は会計帳簿を閲覧・謄写請求できるが,難しい問題があった。
旧商法293条の6によれば,100分の3以上の議決権を持つ株主は,会計帳簿の閲覧謄写を請求できた。尤も,株主が会社と競業する者であったり,会計帳簿の閲覧謄写により利益を得る目的で他人に通報するために閲覧謄写するのであれば,取締役は請求を拒否できた。(293条の7)親会社の株主も同じ条件で子会社の会計帳簿の閲覧謄写請求ができた。(293条の8)
たとえば,競業する意図は,競業者である事実で足りるか,それとも競業に利用する意図を持っていることも要するか,という問題である。主観的意図まで立証しなければならないとすると,閲覧謄写請求を拒否することは困難になる。単に業種が同じでも,取扱商品が違うときは,主観的な競業意図はないことになる。もし取扱商品が同じなら,競業意図は推認されるだろうか。内心を立証するのは不可能に近いから,その場合は競業意図は推認して構わないだろう。同じ商品を扱っている事実のみで競業者と認定されてよい。次第に細かな話にならざるを得ない。今は競業の意図はなくても,将来の競業の意図まで考慮されるのか。今年1月15日,最高裁第1小法廷決定は,請求時の意図がどうであれ,将来競業に利用される危険性は否定できないからことを理由に閲覧謄写を拒めるといい,主観的要件不要説を採った。随分と思い切りのいい判断だ。それならば,利益を得て他人に通報するためという目的(会社法433条2項四)も簡単に認められはしないか。せめて利益目的であることを具体的に立証しないと,何でも利益目的での請求いわれて閲覧謄写請求は拒絶されるおそれがある。今は利益目的が認定できなくても,将来利益を得る虞があるなどと言われたら,株主はどう反論すればよいのだろう。将来の目的まで想像されて拒絶するのが正しいのかどうか。利益を得る虞を,株主の経歴,閲覧請求の必要性,他人に通報して利益を得る以外に活用の方法を知らない株主であることなど,間接事実を具体的に主張し,株主はそれに反論して否定すればよい,という構図になるのではないか。
さて,次は閲覧謄写請求する書類の特定の問題である。
改正会社法433条1項は,100分の3以上の議決権を持つ株主は,会計帳簿またはこれに関する資料が書面で作成されているときは,請求の理由を示して,その書面の閲覧又は謄写を請求することができるという。旧商法293条の6にも同様の規定があり,会計帳簿には資産及び負債を記載することになっていたが,どのような表題の書類を指すのかの定めはなかった。小糸製作所帳簿閲覧謄写請求事件について東京地決平1.6.22は,会計帳簿とは営業上の財産に影響を及ぼす事項を記載した帳簿(総勘定元帳,日記帳,仕分帳等)を意味し,法人税確定申告書はこれらに該当しないとしていた。東京高判平18.3.29は請求の理由につき閲覧請求請求の具体的理由と関連性のある部分の限っての閲覧でなければならないとした。たとえば,「A社とのリース取引に関する部分」では特定されているとはいえず,履行強制の実効性に乏しいとした上で,会計帳簿は営業上の財産とその価額及び損益の状況を示すものである(商法32,33条)ことから,帳簿の特定としては,「YとA社間の財貨の移動に係る部分」という特定で足り,それ以上に限定する必要はないと判示した。
最判平16.7.1は請求理由が具体的になされているときは,「閲覧謄写させるべき会計帳簿の範囲についてさらに審理を尽くさせる必要がある」といい,請求理由が具体的に書いてあれば対象となる会計帳簿の範囲も明らかにできる,と述べた。つまり,理由を具体的に書けば,会計帳簿の表題と種類は請求者が特定する必要はない,会社がそれに該当する帳簿類を提示しなければならないと解されることになった。株主が会社が作成した会計帳簿の種類を知る機会はないから,特定せよと言われても無理な注文だろう。高裁は最判の判断を踏襲して,請求の理由を具体的に書かせることで帳簿類の特定の負担を軽減したといえる。会社計算規則の計算書類,他にどんな書類を作成しているか,株主にはわからないから,表題まで特定して請求する必要はない。以前はどうしていたのだろう。横浜地判平3.4.19は旧商法293条の6の「会計帳簿及種類」の範囲を次のように解説していた。
 会計帳簿に関する書類とは,企業会計原則の目的が,会計帳簿は企業の財務内容を明らかにし,企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにするものでなければならないところから,会計帳簿を実質的に補完する書類には総勘定元帳,手形小切手台帳,現金出納帳,売上明細補助簿(売掛帳),会計用伝票が含まれる。
それまで,旧規定の「会計ノ帳簿及書類」とは何をさすか,明確でなかった。契約書綴り,当座預金照会表,手形帳,普通預金通帳,請求書,納品書,領収書がこれに含まれるか争われたが,この判決はこれを限定解釈し,含まれないといったのである。最判と東京高判は,知るはずもない書類の特定は株主ではなく会社がすればよい,と命じたと思われるが,果たして会社がそれを判断できるか関係する書類をすべて見せるか,問題は残されている。
(備考)
 会社法442条1項1号「株式会社は各事業年度の計算書類,臨時計算書類(監査報告,会計監査報告を含む),事業報告書,付属明細書を定時株主総会の日の前の1週間前から5年間本店に置き,株主,債権者に閲覧請求に応じなければならない。」
この計算書類は,1貸借対照表,2損益計算書,3株主資本等変動計算書,4個別注記表,5営業報告書(事業報告書ではない。435条2項)をいう。
 付属明細書は有形固定資産及び無形固定資産の明細,引当金の明細,販管費をいう。
これらの計算書類は公認会計士等会計監査人の監査を受けなければならない。監査役は計算書類を受領したときは,監査報告を作成しなければならない。監査役会は監査役が作成した監査報告に基づき,監査報告を作成しなければならない。(計算書類等という)
裁判所が訴訟当事者に提出を命じることのできる書類は,計算書類と付属明細書であるが(443条),その他の書類も5年間は本店に備え置かれるから,関心のある株主はその間に閲覧謄写しておくのが賢明と思う。

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