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April 22, 2009

取締役会議事録の閲覧謄写

会社法371条1項は取締役会設置会社は取締役会議事録の本店設置を義務づけ,2項は株主に営業時間内での閲覧謄写請求権を認めている(旧法260条の4のような裁判所の許可は要件とされていない)。同条3項は,監査役設置会社等の取締役会議事録の閲覧謄写は「営業時間内いつでも」ではなく,「裁判所の許可を得て」できるとし,同条4項は,債権者が役員又は執行役の責任を追及するため必要があるとき,裁判所の許可を得て議事録の閲覧謄写を請求する権利を認めている。ただし,裁判所はその会社,親会社,子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めれば許可することができないとしている(同条6項)。
さて,株主に情報収集目的という個人的利益を計る目的があった場合,会社は取締役会議事録の閲覧謄写を拒否できるか。株主が閲覧謄写するのは,株主の権利行使のために会社又は取締役個人に何らかの請求をする場合が多いであろうが,必ずしもそれが最初からはっきりしないこともある。何の目的で使うのか,いちいち説明し会社の了解を求めなければならないようでは,閲覧謄写請求権も無に帰しかねない。
会社に著しい損害を及ぼすかどうか,裁判所が実際に議事録を見てみないとわからない。
見てから判断するという事例はなかったが,昨年12月26日の佐賀地裁の決定がこのテーマに取り組んだ。M&Aの決議をした地方銀行取締役会議事録についてである。事が機密事項だけに,会社は神経をとがらさざるを得ない。一方,取締役が適正に議論し職務を行ったか,株主としても関心を持たざるを得ない。株主が会社に質問したとしても,会社は機密事項を容易に明かさない。やむえず株主は裁判所に取締役会議事録の謄写の許可を申請した。決定の要旨はつぎのとおりだ。
①「権利行使の対象となり得,又は権利行使の要否を検討するに値する特定事実の関係が存在し,取締役会議事録の閲覧謄写の結果によっては,権利行使できると想定することができる場合であって,かつ,当該権利行使に関係のない取締役会議事録の閲覧謄写を求めているということができないときであれば,必要性の要件を肯定するべきである」,
②「もっとも,株主としての権利行使に藉口した請求であり,実質は株主の権利行使であると認められない場合については,必要性の要件が否定される」と。
閲覧請求した株主は普通の株主ではない。当の銀行の依頼でM&Aに関する情報を提供していた経営コンサルタントである。M&A成立後に複数回にわたり銀行に質問状を出すなど,不可解な行動をとった。そこで,裁判所は単に権利行使のため閲覧請求するという理由では足りず,①のような要件が必要だ,②のような場合はその必要性がない,として株主権利行使目的と情報収集のどちらのウエイトが大きいかを審理した。ただし,情報収集でも同時に権利行使目的ということもある。最初は株主の権利行使とは別の個人的利益を計る目的であっても,途中から株主の権利を行使することに変わることもある。主観的目的にこだわると,閲覧謄写請求権が空洞化する虞がある。というわけで,裁判所は株主としての権利行使の蓋然性がないとはいえないとして,閲覧謄写の必要性を認めた。
つぎは,銀行に著しい損害を及ぼすおそれがあるかだが,閲覧謄写を認めることによって株主が得られる利益と会社が被る損害とを比較考量して会社により大きい損害を生じるときには,許可しないことができる,と判断した。何が会社に著しい損害を生じるかは,議事録を見ないと裁判所もわからない。そこで職権で議事録を調べたところ,当該M&Aに関係する各社の秘密事項が沢山あった。これが閲覧謄写されると,M&Aと将来の計画に支障が生じるおそれがある,株主の利益と比べて会社に大きな損害が生じる,と思われた。尤も,全部がそのような秘密事項ではなく,大きな損害を生じない事項については,開示を認めるのが相当と判断した。
閲覧謄写は株主に認められた基本的な権利であるから,これを制限するには慎重でなければならない。①の必要性についてもしかり。②の著しい損害についてもしかり。なるほど,株主はM&Aに拘わった経営コンサルタントというややこしい立場だが,それだけでは閲覧謄写を制限する必要があるとはいえない。次の損害の大きさで縛りをかける方が,制限しやすい,とはいえる。ただし,数量的に株主の利益と会社の損害を比べる方法はないから(会社のために株主代表訴訟するといわれれば否定は困難),比べるのは簡単ではない。
 結論として,①の個人的利益を計る目的でも株主権利行使目的も併存することがあるという判断には賛同できる。②の判断は,ケースによるというしかかなく,会社の損害を株主の利益と比較するという設定自体に,基準としての曖昧さを感じている。
つぎにはきっと債権者の議事録閲覧謄写請求権事件が浮上するだろう。

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