住民訴訟
裁判所が住民訴訟(地方自治法242条の2)をどう見ているか、弁護士費用の観点から検討したい。名古屋地裁平19.9.27判決(判時2012号)は近時の判例。
名古屋市が発注したごみ焼却場建設工事の入札で談合が行われ、。これにより市が損害を受けたとして住民訴訟が提起され、住民の勝訴判決が確定した。訴訟の請求内容は、①受注した業者は市に対し9億円を支払え、②市職員は市に1億円を支払えというもの。判決で請求が認められ、業者は市に9億円と遅延損害金の合計12億円余を支払った。訴訟を弁護士に依頼した住民は、市が得た12億円余を基準に、日弁連報酬規程に基づいて、弁護士報酬1億5000万円を請求し、市が拒否して訴訟になった。市は旧地方自治法242条の2第7項(現12項)の「相当と認められる額」は、報酬規程「経済的利益」の算定不能額に相当するから、800万円を基準にすべきであると主張し、弁護士報酬は196万円が相当であると答弁した。
判決は市の答弁は排斥したが、内容に問題がある。
弁護士の訴訟活動の一部は勝訴判決に反映されず、請求の一部が棄却されている等の事情に照らし、報酬規程によって算定された6327万円のおよそ六割に相当する3800万円とする、と言ったからである。何が問題か。
住民訴訟は住民が市に監査請求して(242条)、不当な公金の支出の是正を求め、市がこれに対応しないときは、住民が市に代って住民の名で是正を求める訴訟をする制度である。市が訴訟するときは訴額(請求額)に相当する印紙を貼る。住民が訴訟するときは訴額800万円に相当する印紙額を貼ればよい。是正を求める訴訟の住民負担を軽減するためである。(なお、株主代表訴訟は非財産上の請求とされ、一律8200円の収入印紙で訴訟できる)。
住民に代わって訴訟提起して貰って、損害を回復しておきながら、それに見合う弁護士報酬を払わない、という理屈は成り立たない。市が自ら訴訟提起すれば、依頼した弁護士に報酬規程に基づいて報酬を払わなければならない。住民が依頼した弁護士なら払わなくていいという結論はない。弁護士会の報酬規程「経済的利益」が何を指すのか、定義されていないため、市は算定不能の場合の800万円と主張した。過去の地裁・高裁判例が採っていた説である。何十億円の損害を請求・回復しても経済的利益を800万円とみなす。こんな理屈はないだろう。名古屋の判決は認容額と支払額を基準にしたから、まだましである。ただし、報酬が減額された点は納得しかねる。全部認容されているから約1億2400万円の報酬でいい。(内訳は1、2審上告審の着手金それぞれ2169万円。成功報酬5726万円。諸経費163万円となる。)
事案は複雑で裁判には多くの準備を要した。市は、談合があったことを理由にした損害は認められていない、実費請求を旧地方自治法は認めていなかった、上告審は口頭弁論期日も開かれず不受理決定されたから着手金は不要のはず等と応訴した。
判決は、認容額を基準にして弁護士報酬を決定する合意が、住民訴訟の法的性質に反するとか、不合理又は不相当なものと解することはできない。弁護士との委任事務処理契約の内容を基準に算定すべきである。「算定不能」ではない。「経済的利益」は「訴訟の対象となっている権利義務の対価」と解すべきであり、9億円とする。したがって1、2審、上告審の着手金は、規程の2%の+369万円=2169万円であるが、「公益目的でした訴訟だから30%減額し、一部の原告が訴を取り下げ、同一弁護士が上告審まで担当しているからこれも減額して、着手金は計2318万円である」と。なんと、三分の一になりました。
報酬は「認容額」が算定基準にされた(ちなみに株主代表訴訟は事務管理であると解されているから、その有益費は事務管理の結果を問われない。実際に会社が認容額を回収できたかは関係ない。)。
実際12億円余り市に払われているから、各審級での報酬は5726万円。これも着手金と同じ理由で30%減額しましょう。つまり報酬合計額は6327万円。なるほど、法的手続は複雑で経済効果も大きいが、価格上乗せの談合は認められなかったから、さらに六割に減らし3800万円のみ認めましょう、という内容である。
半値八掛け五割引で、随分値切った。裁判所は弁護士の苦労が分からない。住民訴訟専門がいるわけでもなく(いつも地方自治を監視しなければならないでも困る)、弁護団を組み、集団討議を重ね、新しい発想と資料収集に工夫努力しないと目的を達しないことが分からない。認容額を基本とするした点は評価できるが、公益目的だから三割減らす、請求額は認めるが談合の事実は認容されなかったから訴訟活動として成果がなく、着手金・報酬とも六割に減らす、というのはおかしい。一体、公益目的だから給料は安く働け、というのは誰が言ってる台詞だろう。全額認容されて、減らす理由はない。規程の減額巾も三割のはずである。
近年、弁護士の数をうんと増やした理由には、権利救済の機会を増やし、公権力の行使を監視是正する目的もある。増やしておきながら、弁護士報酬は不合理な理由で制限するという考えを改めるには、法の「相当と認められる額」を「判決認容額を基準とする報酬規程の額」と改めるしかあるまい。報酬規程自体に巾があるから、その範囲内で増減でき、不都合はない。


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