資産査定区分及び長銀刑事事件判決
さきに紹介した最高決平19.11.30はいう。銀行の資産査定業務は法により義務づけられ,融資先の資産査定を行う債務者区分をするために,作成したのであり,事後的に検証に備える文書である。このことからすると,融資先の査定資料一式は自己査定する為に必要な文書であり,監督官庁による資産査定に関する検査で,資産査定の正確性を裏付ける資料として必要とされている。したがって,融資先以外の者による利用が予定されており,自己専利用文書には当たらない。という決定で差し戻し後の東京高裁平20.4.2は,開示が許される情報を限定した。つまり,銀行が自己査定を行う際に外部機関から取得する信用情報は,開示されると,情報元との信頼関係が損なわれ,銀行業務に深刻な影響を与える可能性があり,「職業の秘密」にあたると判断した。この「職業の秘密」とは,公開されると「当該職業に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるもの」と解されている(最決平12.3.10)。金融機関が顧客との取引によって知り得た顧客の秘密としては,取引履歴を記載した明細書,銀行の法人税申告書,勘定科目内訳書の控え,顧客債務者の無税化計画文書,顧客債務者の念書・覚書を含む契約書などは「職業の秘密」にあたらないとした下級審判例がある。取引先の貸借対照表・損益計算書はもともと公表を予定された文書であるから,問題ない。非公開を条件に提供された情報はどうか。訴訟の審理における証拠の重要性,個別的事情の元での秘密性の程度を総合考慮して,職業の秘密に該当しない特別な事情があると言えるかどうかで,判断されている。銀行が自己査定するに際し外部から入手した資料は,情報提供者との信頼関係が損なわれ銀行業務に深刻な影響を与える可能性を否定できないから「職業の秘密」にあたるとされる。銀行自身がした分析・評価表は,資産査定が画一的・統一的な基準に従って行われ,のちに監督官庁の検査で検証されることが予定されていることなどから「職業の秘密」ではないが,そこから外れる金融機関内部の信用状況解析資料は銀行のノウハウにあたることになる。その場合,インカメラで文書の内容を見たうえで,ノウハウ部分を隠して(マスキング),提出を命じることになる。
執筆途中ですが,18日,長銀刑事事件の最高裁判決(第二小法廷)がありました。資産査定区分のやり方についての判決です。破綻した日本長期信用銀行(現・新生銀行)の98年3月期決算を粉飾したとして,証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と商法違反(違法配当)に問われた元頭取,大野木克信被告ら旧経営陣3人の上告審判決で,最高裁第2小法廷は有罪とした1,2審判決を破棄し,逆転無罪を言い渡した。破綻責任追及をうたった金融再生法適用第1号の事件は,無罪が確定しました。ほかに無罪が確定するのは元副頭取ら2名。98年3月期決算で関連ノンバンクなどへの不良債権を処理する際に行った回収見込みの自己査定が,当時の「公正なる会計慣行」に反していたかが争点でした。大蔵省は早期是正措置の導入を控え97年3月,査定の厳格化を求める通達を出していたが,長銀は回収見込みをこれらの基準より甘く査定していた。
判決理由の抜粋から。「資産査定通達等によって査定される改正後の決算経理基準は,特に関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関しては,新たな基準として直ちに適用するには,明確性に乏しかったと認められる上,本件当時,関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関し,従来のいわゆる税法基準の考え方による処理を排除して厳格に前記改正後の決算経理基準に従うべきことが必ずしも明確であったとはいえず,過渡的な状況にあったとはいえ,そのような状況のもとでは,これまで「公正なる会計慣行」として行われていた税法基準の考え方によって関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定を行うことを以て,これが資産査定通達等の示す方向性から逸脱するものであったとしても,直ちに違法であったということはできない」と。
つまり,①関連ノンバンクに対する貸付であり②したがって長銀の積極支援があり得③改正後の決算経理基準は多くの銀行で採用されておらず④解釈と適用に相当の幅があり⑤税法基準を排除する考え方が浸透していなかった,というのです。有罪か無罪かを決める法規が定着していなかったから無罪という判断です。
罪刑法定主義の立場から,あるいは違法でも可罰違法ではないという立場からは,承認される判決ですが,実は何が「公正なる会計慣行」であったかという根本的問題を解決していません。僅かに補足意見が,「企業の財務状態をできる限り客観的に表すべき企業会計の原則や企業の財務状態の透明性を確保することを目的とする証券取引法における企業会計の開示制度の観点から見れば,大きな問題があったものであることは明らかである」と述べているだけです。この判決は,長銀の会計処理に大きな問題がありながらこれを放置した責任は結局,誰にあるのか,金融行政の不統一・不徹底があり,銀行の資産査定区分には自由が許されていたのか,何が公正なる会計慣行だったのか,という重大な問いに答えていません。しいて評価するとすれば,税法基準が「公正なる会計慣行」であったとも言っていない点でしょうか,結論に至る理由説明に,最高裁に期待されていた役割を果たしておらず,残念な思いがします。射程距離の短い限定事例判決と思います。


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