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June 12, 2008

株主名簿そして文書の開示

6月12日,東京高裁はTOBをかけられた会社に,株主名簿の閲覧・謄写を命じる決定をした。会社法125条3項三は,「実質的に競争関係にある事業者」の株主名簿閲覧請求は拒否できるとしているが,東京高裁は,「競争関係にあると言うだけで拒否を認めれば,株式会社を監視するという閲覧請求制度の趣旨を損なう」と指摘した。「請求者側が濫用目的ではなく,株主の権利行使のための調査目的と証明できた場合には,閲覧・謄写を認めるべきべきだ,というのである。TOBをかけられた会社は,TOB自体に反対していたため,かけた方が株主総会に向けた委任状勧誘のため,株主名簿の閲覧・謄写を求めていた。
 1審(東京地裁)は,先月,競争関係にある会社からの株主名簿閲覧・謄写請求を認めなかった。「実質的に競争関係にある」という理由である。閲覧はさせるが謄写はさせないという会社もある。やむなくハンドスキャナーで名簿を読み取り,人海戦術でパソコンに打ち込んだ会社もあるという。なぜ株主名簿まで不開示にしなければならなかったのか,立法理由が分からなかった。東京高裁は,名簿がなければ委任状勧誘も難しくなり,企業買収を不当に制約することになる点を考慮したと思われる。買収する側が情報を持たず,される側だけ情報をもつ,という不公平が生じるからである。
 英国では誰でも株主名簿を閲覧できる。米デラウエア州でも競争関係だけを理由に閲覧を拒否することはできないらしい(日経5.26)。過剰な秘密主義は海外投資家の不信を招く。
 ところで,金融機関の保有する文書についても,最高裁が昨年,重要な決定を出している。
①平成19年11月30日の決定
 取引先が破綻し,売掛金の回収が不能になったが,取引先のメインバンクがその経営を全面的に支援することを約束した。しかし,結果的に支援せず,取引先は破綻した。債権者は銀行が騙したとして,不法行為による損倍賠償を請求した。その裁判の中で,取引先の経営状況を調査した銀行の自己査定資料の提出を求めた。
 原審(東京高裁)は,自己査定資料は金融機関の業務の健全性を確保するために作成された,法で義務づけられていない資料で,内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示すると金融機関内部の自由な意思形成が阻害される,として自己専利用文書(民訴法22条4号ニ)に当たるから,提出の必要はないとした。
 これに対して最高裁は,銀行の資産査定業務は法により義務づけられ,融資先の資産査定を行う債務者区分をするために,作成したのであり,事後的に検証に備える文書である。このことからすると,融資先の査定資料一式は自己査定する為に必要な文書であり,監督官庁による資産査定に関する検査で,資産査定の正確性を裏付ける資料として必要とされている。したがって,融資先以外の者による利用が予定されており,自己専利用文書には当たらない。こうして,最高裁は文書提出を認めた。
②平成19年12月30日の決定
相続人間で相続財産につき紛争が生じ,被相続人が生存中に一人が相続財産の預金口座から払い戻しを受けた金を被相続人の費用に充てたのか,自ら取得したのか,が争点となった。もう一人の相続人は銀行に対し,払い戻した相続人との取引履歴を記載した取引明細表の開示を求めた。原審は,取引明細表は職業秘密文書に当たるとして,開示を認めなかった。最高裁は「金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,顧客自身が民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には,顧客は顧客情報につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関は訴訟手続において顧客情報を開示しても守秘義務に違反しない。」として,原審の判断を破棄した(金融商事判例1288)。民訴法197条1項3号の「職業の秘密」は,民訴法220条4ハで提出義務が免除されている。最高裁の補足意見は,顧客との守秘義務上,第三者から文書提出命令の申立がなされた場合に,契約上の守秘義務に基づき文書が職業上の秘密に該り,文書提出命令の申立には応じられない旨申し立てる義務あることがあるとし,金融機関が企業買収の契約書等の顧客情報を有しており,文書提出命令を申立てを受けた場合は,情報が職業上の秘密に該ることを主張する義務があるというべきである,という。
現実には,金融機関に限らず,職業上の秘密を理由とする文書不開示は非常に多い。
これと,冒頭の東京高裁決定との関係はどうなるのだろう。
仮処分による閲覧・謄写請求と文書開示命令申立とは,特定の文書につき法が開示を認めたものであるか否かの違いがあるが,根底には,商業上,業務上作成された文書であっても,実質的に開示を求める利益があり,開示させることが公平の原則上も望ましい,という実質的利益較量が働いている。会社が金融機関か,官公庁かいずれであってもこの原理は通用するはずである。職業上の守秘義務も開示を拒む決定的な砦にはなりにくくなっている。秘密文書に公共上の利益がからむ場合はなおさらである。今しばらく,この問題を追及してみたい。

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