企業・専門職の情報開示
不動産仲介大手のエイブルが,実在しない物件や,すでに入居者のいる部屋の関する情報をインターネット上で掲載し,公正取引委員会が景品表示法違反(優良誤認,不動産のおとり広告)で再発防止を求める排除命令を出した。築年数や駅からの距離を実際よりよく表示していた事例もあった。エイブルは「データのチェックミスやシステムの誤操作が原因」と説明したという(日経6.19)。言われてみれば,店に広告の物件を問い合わせると,もう売れました,契約しました,代わりにこれはどうですか。」と,広告の品ほどでない別の物件を勧められて,あとで揉める事例があることに気づく。排除命令が出るくらいだから,虚偽の紹介事例は多く,悪質だったのだろう。データの誤入力で貸せない物件をいくつも紹介するくらいなら,最初から仲介業をやる資格はない。ここからは空想だが,もし貸せない,売れない物件を,貸した,売ったことにしていたら,内部情報のねつ造と架空売上の計上になる。
システム開発会社のIXIも架空売上を計上し,粉飾決算した。取締役3名が証券取引法違反で起訴された。決算前に開発者不明の商品の開発費名目で数千万円の売上伝票が回っていたという。架空ではないかと疑った社員は社長に一蹴されたという。実体を伴わない伝票操作だけの商品売買はある。システム開発といういまだ実用性を証明されない商品とありもしない商品売買との差は紙一重だと思う。大阪だけが悪いといっているのではない。見せかけの利益で投資を呼び込み,市場を騙してでも儲けたいという拝金思想があることをいいたいのである。
企業の会計を監査するのは監査法人等会計監査人である。会計監査人も情報開示しない。監査調書のことである。企業の秘密が記載されているから,というのが開示を拒む理由であるが,ほんとの理由は,監査を手抜きした経過が一目瞭然になることを心配するあまりである。自分の監査に自信があるのであれば,提出して評価して貰えばいい。自信がないとき,提出を渋る。監査の無過失を証明しようとしない(監査実施準則八,監査基準委員会報告16号は「通常実施すべき監査手続を実施したこと,十分な監査証拠に基づいて監査意見を形成したことを証明するために作成する。」と明記している)。監査の要点,監査計画,試査,在庫の棚卸,取引先への取引の実在性についての質問。これらの総合評価。みな監査調書中にある。監査のねらいと到達点が書いてある(はずである)。ところが,それが秩序を以て正確・明瞭に行われている監査調書は滅多にお目にかかれない。裁判に登場する調書は,殆ど雑然としている。監査が杜撰であることが読み取れる。経営者との馴れ合いがある。監査計画が最も検討を要する点を外して作られている。監査の要点も違うところに力点が置かれる。当然,ほんとの要点の裏付け調査が不足する。取引先,銀行取引残高照会も通り一遍である。附属明細表,信託契約等に基づく運用指図書,運用報告書の吟味が足りないから,取引照会回答書だけで取引の実在性を証明してしまう。
NHKのドラマ「監査法人」が始まった。土曜日の夜9時からであるが,説得力もあり,心当たりもある。2回目以降も楽しみ。さて,そこでは企業経営者と大手監査法人理事長の馴れ合いが,若手公認会計士を苦しめる場面が登場する。建設会社ができてもいないマンションを完売・入居済として売上金を計上する。不審を持った若手会計士が現地を見ると,工事中だったり,まだ空き地だったりする。現地調査の前日,完成を装うためにあわてて足場を取り外す作業中に,作業員が転落死する。会計士は自分の責任ではないかと悩む。監査法人理事長は経営者から会社を潰すつもりか,と難詰される。企業の背後にはその倒産も厭わず債権回収を急ぐ銀行の陰謀がある。実際を知らないとこの脚本は書けないと感じた。面白いですよ。監査調書がどんな風に作られ,審査されて適正意見に昇華されていくか,そんな内部の葛藤場面を描いて貰ったら,さらに面白い番組になります。
監査の構図が,監査人は被監査会社から報酬を貰い,監査人の社員はそこから給料を貰う。この循環が断ち切れない限り,企業と監査人との馴れ合いがなくならない。公認会計士法の改正で罰則を強化しても,報酬の魅力にはなかなか勝てない(その延長線上に,監査役による業務監査にも同様の問題が想定される)。
昨年,公認会計士法等の一部を改正する法律が成立し、金融商品取引法の改正による193条の3として新設された。それによると,監査人が監査証明を行うに当たって、法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼす恐れのある事実(法令違反等事実)を発見したときは、事実の内容,事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を書面で会社に通知し、一定期間経過後になお法令違反等事実が財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼす恐れがあり、かつ、会社等が適切な措置を取らない場合であって、重大な影響を防止するため必要があると認めるときは、意見を当局に申し出なければならない。これは会社が従わないときに,会計士が当局に通報する義務があるというもので,従来はなかった発想です。


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