熱いソース

　暑い時期の熱い決定だ。最高裁は昨日，ブルドッグソースの買収防衛策を巡る仮処分申請事件で，防衛策差し止めを認めなかった東京高裁決定を維持した。最高裁としては初の防衛策の判断になる。決定（骨子）は，①米投資ファンドのステイールパートナーズが濫用的買収者か否かにかかわらず，今回の防衛策は法令に違反しない。②株主共同の利益が害されるかどうかは，株主自身が判断できる。③買収が始まった時点で防衛策を講じることができる，という。最高裁が，買収防衛策が株主平等の原則に反するかにどのような判断をするか，が注目されていたが，株主自身が決めることで，裁判所としては一定の基準を設けることはしない，と言ったのである。
これで株主平等の原則とは何か，を示したことにならないことは明白である。株主の多数決が裁判所の判断に優先するというのである。ソース側の防衛策導入特別決議には株主の３分の２以上（83.4％)の賛成があった。その数の大きさが，平等原則に反しない，という結論を導いたことは間違いない。そうすると，これから買収におびえる企業は，３分の２の賛成を得るべく，委任状確保に走ることが予想される，３分の２に至らない時は，どうなるか，予測がつかない。そもそも，３分の２という数字に，はっきりした根拠はないはずだ。（本件の東京地裁決定は，株主の有する株式の数に応じて金銭その他の対価が交付され，経済的利益が確保される限り，株主総会の特別決議によって（会社法783条1項，309条2項12号），少数株主としての地位を強制的に失わせることができる。特定の株主からの自己株式取得（156条1項，160条1項，309条2項2号）といった，支配株主のみが利益を受けるおそれがあり，株主平等の原則から株主の利害に関わる事項も，法は株主総会の特別決議の下に容認している。したがって，ステイールパートナーズが持ち株比率の低下という不利益を受けるとしても，適正な対価が交付され，株主としての経済的利益が平等に確保されているときは，株主平等原則や法278条2項の規定に違反しない，と言っていた。）
　ステイールパートナーズへの新株予約券無償割り当てが，著しく不公平な方法といえるか，については，経営を担当している取締役又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には，その新株予約券無償割り当ては原則として著しく不公平な方法によるものと解すべきであるが，本件はそのような場合に当たらない，ともいう。そして最高裁は東京高裁のような，濫用的買収者，という各論に踏み込む愚は犯さなかった。濫用的買収者かどうかは不明だが，何をする買収者かはまだ，ステイールパートナーズは明らかにしていない。もし明らかにしていれば，株主の利益は，いずれにあるかが，裁判所に分ったかもしれない。３分の２多数論は買収者の意図が明らかにされない事案について示されたものと解したい。防衛する経営陣にも同じ問題は残っている。何の為の防衛か，これを示さないまま防衛策導入に走るのは，取締役の忠実義務，経営を任された委任の趣旨に反するのではないか。数だけの勝負では実質的な議論になりえない。いまの国会と同じではないか。株主も会社に何を求めるのか，が問われている。株価動向と配当利益が関心事で，経営方針には関心のない人が，買収問題に熱くならなければならない必然性はない。ステイールから買い取る新株予約権の代金２１億円が特別損失になる。業績も悪化している。株価は前日から３７円下がった。理論上はもっと下がるらしい。これも株主自身が決めたこと。ソースはすでに熱くなり，煮詰まってきている。総力戦で経営を正常化しなければなるまい。裁判所は買収防衛議論から一歩身を引いた，という感じがする。